お知らせ
2019年4月13日
宇多喜代子×小澤實 ダブル刊行記念「平成の名句を語る」
大阪梅田の蔦屋書店では、いつも関西から詩歌の世界を盛り上げてくださる書店員のNさんが、魅力的なイベントを企画されています。
4月13日(土)は、宇多喜代子さんと小澤實さんによる「平成の名句を語る」トークでした。
名句とは、10人が選べば10人異なります。ゆえに既存の評価にとらわれず名句を選び、鑑賞するというのはなかなか難しいもの。その点で約10年にわたる連載から近現代の名句300句を取り上げ鑑賞した小澤さんの『名句の所以』は貴重な一冊です。
話の中で取り上げられた俳句をいくつかご紹介します。
毎日新聞出版(2018/9/15)
冬木の枝しだいに細し終に無し 正木浩一
起立礼着席青葉風過ぎた 神野紗希
チューリップ花びら外れかけてをり 波多野爽波
茄子焼いて冷してたましいの話 池田澄子
みづうみのみなとのなつのみじかけれ 田中裕明
台風をみんなで待つている感じ 中田美子
投げ出して足遠くある暮春かな 村上鞆彦
春の風顔いつぱいに吹く日かな 成田千空
ただひとりにも波はくる花ゑんど 友岡子郷
見る人もなき夜の森のさくらかな 駒木根淳子
冬の月明たかが人間ではないか 栗林千津
あつが死んだ日囀りの口が見え 金田咲子
上のとんぼ下のとんぼと入れかはる 上田信治
西国に水の傾く稲の花 山口昭男
「作者の顔が見えてくるのが名句」「円形の半分は作者でもう半分は読者」など、宇多さん・小澤さんの鑑賞を聞きながら、名句の多様性を存分に味わうことのできた1時間半でした。
青磁社(2018/12/7)
今回のトークイベントの前半は宇多喜代子さんの最新句集『森へ』の発刊記念でもありました。小澤さんが「この句集では面白さが濃くなりましたね」と言うと、宇多さんは「年を取ったせいですね。当たり前のことを当たり前に詠むようになりました」とコメント。この句集には、
二人入り二人出てくる芒原
ふくろうのふの字の軽さああ眠い
といった軽妙な句もあれば、
一瞬が一瞬を追う雪解川
球形の大地に凝りて露の玉
蛇の手とおぼしきところよく動く
といった森羅万象の躍動を詠んだ句があり、そして「戦争」という重いテーマが共存しています。
夏の真夜火の中にわが家のかたち
炎天下死んだ少女の手に水筒
終生の目の底を這う炎かな
八月に焦げるこの子らがこの子らが
宇多さんの家が戦火に焼かれたのは9歳の時。
「お母さんがついてるから大丈夫」。
そう言って、当時32歳の母親が、焼夷弾に怯えるわが子を励まし、命に代えても守ろうとした心中を思うと胸が締めつけられます。人類の長い歴史の中で、戦争の時代を生きなければならなかった人々。その苦難は計り知れません。平成の終わりに大事なことを教えられる一冊です。