朔の本
句集『豊かなる人生』書評・記事
『豊かなる人生』がしんぶん赤旗(2020.11.25)の「俳句時評」で紹介されました。
評者は神野紗希さんです。
ふだん、俳句は難しいという祖母が「面白かったけん、一晩で読んだわい。これならおばあちゃんにも分かる」と、貸した句集に嬉しそうに感想をくれた。大正11年生まれ、白寿を迎えた竹村翠苑の第2句集『豊かなる人生』(朔出版)だ。
杉菜の根伸ぶ深海の底ひまで
仕方なし接木の茄子のまづくとも
種蒔くも覆土も素手や千切れ雲
林檎摘果葉の四十に実は一つ
信濃の地の農事の日々から、たくましく差し出された自由な言葉。愛媛で蜜柑や野菜を育ててきた祖母の生活実感とも、がっちりリンクしたようだ。
蛾の幼虫六ミリ公魚の釣り餌とす
吾の投げし菜虫引きゆく蟻の列
ポリ袋はち切れさうに鹿の肉
命の循環に手を貸すことで、歯車の小さな一つとして、私の命も世界に組み込まれる。
句集の表題句は〈プルーン捥ぐこの豊かなる人生よ〉。栄養の詰まったプルーンのように、人生もまた豊か。生を実感できるのは、農事を通し世界と密に繋がっているからであり、さらには俳句と出会って言葉にするすべを知ったからだろう。