朔の本
毬矢まりえ句集『妖精に注意』(ようせいにちゅうい)
発行:2025年10月7日
帯文:中原道夫
栞:神野紗希・阪西敦子・堀切克洋
装丁:松田行正・内田優花/マツダオフィス
四六判セミハード装 192頁
定価:2750円(税込)
ISBN:978-4-911090-33-6 C0092
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物語はすぐそばにある──
アーサー・ウェイリー訳『源氏物語』を日本語に訳し戻したことで知られる毬矢まりえによる待望の初句集。翻訳や古典研究で培った広い視野で、日常の季語に世界の物語を重ね、虚実のはざまを自在に行き来する瑞々しい一冊!【帯文=中原道夫/栞=神野紗希・阪西敦子・堀切克洋】
◆帯より
金雀枝やここより妖精に注意
「窓を開けてどうぞその顔を見せておくれ」で始まるカンツオーネの名曲「マリア・マリ」を十代の頃知った。それから五十年経って、「マリヤ・マリエ」という女性が「銀化」の門を叩いた。驚くと同時にG.ステファーノのその曲を知ってのことなのではと、因縁めいた出会いが今に続いている。その彼女の第一句集。一言で彼女の作風を言うなら、西洋文学がその出自、基盤にあるようで、所謂、黴臭い日本風土にはない軽やかな、オード・トワレのような甘やかな匂いがする。(中原道夫)
◆自選10句
いづれのおほんときにか鶯の初音
春泥に一角獣の蹄あと
古池にゆきどころなき花筏
鋭角のザムザの視野に五月来る
天窓にまなじりを裂くはたた神
ドビュッシー水の戯れ山湖夏
秋茜地上に針の影浅し
赤啄木鳥は一声残し森昏るる
山姥がほどいてゐるよ枯蔓を
シベリアのしづく滴る白鳥来
◆栞より
神野紗希:
クオ・ヴァディス万緑胸に閉ぢこめて
ペトロがキリストに問いかけた「Quo vadis」。あなたはどこへ行くのか。その響きは決して空虚ではない。万緑の命を強く抱き、こぼさぬように歩き出す。そのはじまりの一歩の確かさを、私は信頼する。
阪西敦子:
金雀枝やここより妖精に注意
句集のタイトルとなった句は、アイルランド巡礼の句から取られた。交通標識にあった言葉から得たものだという。幼いころから物語に親しみ、のちに文学の研究者となる作者にとって、その標識は自然で、自らの世界を諾うものだったのだろう。
堀切克洋:
仙人掌も友なり星の王子さま
サン=テグジュペリ、ブルトンのほかにも、ゲーテ、トルストイ、カフカ、ドストエフスキーといった作家が星座のように散りばめられている。その先頭に『源氏物語』が置かれていることは、俳句が今や日本を代表する文化となって久しいことと、アナロジカルな関係にあるといってよい。
<著者略歴>
毬矢まりえ(まりや まりえ)
俳人、評論家。『源氏物語 A・ウェイリー版』全四巻を
現代語に訳し戻し「ドナルド・キーン特別賞」受賞。
著書に『ドナルド・キーンと俳句』(白水社)、『ひとつぶの
宇宙』(本阿弥書店)、『レディ・ムラサキのティーパーティ
らせん訳「源氏物語」』(講談社)がある。「銀化」同人、
国際俳句協会会員、俳人協会会員、日本文藝家協会会員。