朔の本
細谷喨々句集『父の夜食』
発行:2021年12月10日
栞:工藤直子+螻蛄の会連衆
装丁:奥村靫正/TSTJ
装画:山田開生/TSTJ
四六判フランス装 208頁
定価:2860円(税込)
ISBN:978-4-908978-72-2 C0092
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小児科医として子どもの命と向き合い続けてきた著者が、自らの「生」をも見つめ、四季に移ろう暮しと、その心の在処を詠う第三句集。370 句収録。
◆栞文より
ある日、友人数人と、細谷先生にお会いする機会があり、とたんに我々は細谷先生が好きになりました。で、もっとお会いしたいと思い、俳句を教えてくださいとお願いしました。お目にかかる口実です。――俳句、ごめん。(工藤直子)
◆あとがきより
時々、子どもの頃を懐かしく思い出します。内科医の父は農村で小さな医院をやっていました。まだ自家用車などなかった時代です。遠くの患家まで自転車で往診していました。町内の川向こうの家に行くには渡し船を自分で操って最上川を渡らなければならなかった頃のことです。当時の我が家の風景を懐かしく詠んだ一句がこの句集の中に入れてあります。昔々の前書きつきの、
往診の父の夜食に子が集(たか)る
この句から第三句集のタイトルを『父の夜食』としました。急患で呼ばれ、夕食も食べずに往診に出た父のために母は夜食を準備して帰りを待ちました。そこに私と妹が……。(細谷喨々)
◆自選15句
屋上に一人の月を祀りけり
ふらここや順番待ちの子が歌ふ
八月やオルガンの蓋軋みけり
陽のあたる場所に必ず初雀
何処までが此の世彼の世の蛍かな
あの辺り月の在り処や雲の色
飛蚊症残し溶けゆく揚雲雀
行く春や自然死に○検案書
忘れ汐いそぎんちやくに指吸はせ
禁足令かててくはへてやませ吹く
ふるさとの青嶺の先の月の山
呼吸するごとく雪降るヘルシンキ
雪女まづ唇を塞ぎたる
裸木を真赤な月が攀ぢ登る
すれ違ふ犬の一瞥冬木立
<著者略歴>
細谷喨々(ほそや りょうりょう)
昭和23年1月2日、 山形生まれ。 本名、 亮太。 小児科医。 東北大学在学中に石川桂郎に師事。
昭和45年「風土」 同人。 昭和50年桂郎死去後、「風土」 を去り、同門の島谷征良の「一葦」 創刊に参加、同人。
平成15年「件」創刊に参加、 同人。
句集に『桜桃』 『二日』、 エッセイ集に『パパの子育て歳時記』 『小児病棟の四季』『生きるために、 一句』 『いつもいいことさがし1~3』 ほか、坪内稔典、仁平勝との共著『旬の一句』などがある。
「螻蛄の会」 宗匠。 ㈳俳人協会評議員。