朔の本

山本 潔句集『艸』

発行:2020年3月28日
序文:大木あまり
装丁:奥村靫正/TSTJ
四六判上製 208頁
2860円(税込)
ISBN:978-4-908978-40-1 C0092


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秩父に生まれ、自然と生きとし生けるものを愛する大らかな句群。
五感をフルに使い、健やかにして多彩な360句を収める「艸」主宰の第一句集。

◆序文より

エールという言葉で、思い出すことがある。東京大学の五月祭に行った時、学生たちがやっているカレー店や氷店などを見て歩くうちに、俳句仲間とはぐれてしまった。東大のキャンパスの人込みに紛れ込み、うろつく私を探してくれたのが潔さんだった。

 その日の句会の席で

  

 聖五月迷子の大木あまりやーい

という句が回ってきた。潔さんの句だった。こんなウイットに富んだ句を即吟で詠む潔さんて凄いと思った。「迷子の大木あまりやーい」という呼びかけに、作者の思いやりと優しさが伝わってきた。草原にいるわけでもないのに、「草の海からエール」をもらったような不思議な感覚にとらわれた。唐突に思われるかもしれないが、「迷子の大木あまりやーい」こそ私への応援句だと思ったのである。

​(中略)

 

 艸といふ艸を愛でゐて夏はじまる

 句集名となった句。「艸」は草の本字である。「艸」という字を見つめていると、二本の草が並んでいるというより、草と草が支えあっているようにも見える。こう書いていると、部屋いっぱいに草の香りがしてくるように思えるから不思議。ふっと、「迷子の大木あまりやーい」という句を読んで、「草の海からエールをもらったような気がした」のは、無意識のうちに、掲句が胸をよぎったからだと思う。

 それにしても、草が作者の心の象徴であるという、夢や希望にあふれているこの句の魅力は、「夏はじまる」に作者の強い意志を感じさせるところだ。

 『艸』の共鳴句を挙げながら、この句集の鮮烈な世界を垣間見てきた。柔にして剛の人、潔さんは、草一本一本に心を寄せながら、これからも即物描写の目が効いた詩情あふれる作品を作っていくことだろう。

……大木あまり


◆自選12句

木洩日さへ重たき昼の牡丹かな
白シャツや文語動詞の活用表
行く秋やレコード盤の針の傷
一茶忌のパンとチーズと赤ワイン
寒牡丹香のあるやうな無きやうな
麻衣ひと日の皺を増やしたる
シャム猫に新米炊けてゐる匂ひ
冷蔵庫開ければガラス壜の音
教会の白き羽根ペン朝涼し
花種を蒔きて夕暮迎へけり
薬缶なき単身赴任半夏生
ふくしまの闇なほ深く誘蛾灯


<著者略歴>
山本 潔(やまもと きよし) 
1960 年、埼玉県秩父市生まれ。
2009年、吟行グループ「ユリシーズ」に参加。
「花暦」(舘岡沙緻主宰)、「海程」(金子兜太主宰) を経て、
2020年、「花暦」の後継誌として「艸」を創刊主宰。俳人協会会員。

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