朔の本
島 雅子句集『もりあをがへる』
発行:2019年9月26日
装丁:奥村靫正/TSTJ
装画:佐々木風吹
栞:鳥居真里子・岩淵喜代子・谷口智行
四六判セミハード 178頁
2860円(税込)
ISBN:978-4-908978-26-5 C0092
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人生の明暗を詠み、
時にファンタスティック
夫を亡くし、氏を失い、独り寂々とした時間を重ねるなかで、自然の息吹に耳を澄ませるとき、繊細な詩心から言葉が動きだす。
句集名となった句は、
あをもりのもりあをがへるあをがへる
チェコで生まれた青年が教えてくれた「モリアオガエル」。
その青年との透明な時間を句集名としてとどめた。
鳥居真里子氏はいう。「この一句はぜひ口に出して読んでみてほしい。言葉の響きがなんとも明るくて、微かに淋しさがただよい始めることに気づくはずだ」と。
人生の明暗を詠み、時にファンタスティックな一冊。
新たな境地をひらく「門」同人・島雅子の第二句集!
◆「栞」より
青き踏むとことん絶望する勇気
何かを失ったとき、何かを手に入れる。それはかけがえのない記憶の蕾だろう。今まさに、雅子さんはその蕾がほころぶように、十七音という香木いっぱいに記憶の花を咲かせている。(鳥居真里子)
梟は沙漠の星を知つてゐる
猛禽類の梟は砂漠にもいるようだが、この句を鑑賞するのにそうした事実は必要ない。雅子さんにとって、梟は胸中の魂の象徴なのである。旅で見上げた星を語り合うのは、自分自身の中にしかないのである。(岩淵喜代子)
師系とは師とはひたすら滴れり
師系とは絶えることのない原初の声である。師系を尊ぶとはその声を聴き取り、受け継ぎ、自らの源を抱え続けていくことに他ならない。その源にある一つ一つの滴りは、まさに師への厳粛な挑みの繰り返しであり、そこには熱意と誠意、至福の喜びが籠められている。(谷口智行)
◆自選12句
青き踏むとことん絶望する勇気
貌鳥に力が抜けてしまひけり
あをもりのもりあをがへるあをがへる
短夜を覚めをる癌よ俺は寝る
静かなる怒りは深し仏桑花
つくつくし被爆認定死後届く
秋風や腕時計だけ生きてゐる
指笛に応ふ銀漢濃かりけり
歓んで風の余白の木の実かな
梟は沙漠の星を知つてゐる
裸木を抱きて力をもらひけり
己亥(きがい)歳旦光芒をたぐりよす
◆「あとがき」より
日常にいま在ることの尊さ、不思議さ。ふとした出来事はいつかどこかで繋がっていたりもする。毎日が即興で新しい。日常を詠み、時空を超える表現が出来た時、どんな喜びに出会えるか、俳句形式を信じて詠み続けたい。(島 雅子)
<著者略歴>
島 雅子(しま まさこ)
1940 年、兵庫県神戸市生まれ。1998年、俳誌「門」に入会し、鈴木鷹夫に師事。2007年、第一句集『土笛』刊行。現在、「門」「ににん」同人。俳人協会会員。