朔の本

句集『此処』書評・記事

句集『此処』が6月6日(土)の読売新聞「俳句とことば」で紹介されました。
評者は仁平勝さんです。

池田澄子句集『此処』は、話し言葉を採り入れる方法に、いわば俳句のリアリズムがある。ここでは、亡くなった夫を偲ぶ句を引いてみたい。
「あっ彼は此の世に居ないんだった葉ざくら」は、夫を亡くした悲しみではなく、ふだんはそれを意識しない日常のリアリティを表現している。そして「居ない」という動詞は逆説的に、夫の不在感でなく存在感の表現になる。
「迎え火に気付いてますか消えますよ」は、おがらを燃やして迎え火を焚き、生前と同じように夫に声をかけている。その話し言葉から、夫の存在感がリアルに伝わってくる。
「見に来て見ている去年二人で見ていた花」は、見るという動詞を三つ重ねてみせた。夫との花見の回想だが、「見に来て」がなければ平凡な句になる。この句の主題は、その桜をわざわざ見に来た作者の思いにほかならない。
「また此処で思い出したりして薄氷」も、思い出すのは夫のことだろう。但し、夫でなくてもかまわない。句集の表題句だが、すなわち「此処」という現在の場所が、池田澄子の俳句の拠点なのである。

句集『此処』が6月20日の毎日新聞「今週の本棚」で紹介されました。
評者は歌人の小島ゆかりさんです。

ひとつ前のページへ戻る