朔の本
細川洋子句集『海馬』(かいば)
発行:2025年7月6日
帯文:能村研三
栞:相子智恵
装丁:奥村靫正・星野絢香/TSTJ
四六判上製本 クロス装 208頁
定価:2860円(税込)
ISBN:978-4-911090-30-5 C0092
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自分はいったい何者なのか―。脳腫瘍により一年余りも記憶を失うという稀有な体験をした、医師で俳人の作者による20年ぶりの第二句集。記憶障害からの回復、東日本大震災、コロナ禍といった出来事を経て、個と時代を貫くことばを日常から掬いあげる。静けさの底に確かな鼓動を湛えた340句。
◆帯より
埋火や津軽じよつぱりふつふつと
第一句集『半球体』を上梓後、間もなくして脳腫瘍を患った作者は記憶を司る海馬を圧迫され、しばらく記憶がなくなるという経験をされた。しかし手術後は目を見張る回復ぶりで記憶が戻った。これも洋子さんが津軽出身のじょっぱりを貫き通したからで、医師として俳人として不死鳥の如くに蘇り、このたび句集『海馬』を上梓されたことを喜びたい。
(能村研三)
◆自選12句
天の川ひとに海馬といふところ
朧濃きものの一つに牛のこゑ
にんげんに喫水線や籐寝椅子
親離れとはしほはゆし桜漬
引き潮のやうに夏負けしてをりぬ
車座になりたる雛納めけり
牡丹の迷宮咲きと思ひけり
目を閉ぢてゐても明るき花疲
謝つてしまへば葱の甘かりし
針穴は光の出口針供養
部屋の奥行長くなる湯冷めかな
あをぞらの一枚仕立て梅の花
◆栞より
天の川ひとに海馬といふところ
肉体と宇宙が重なるような詩的な驚きは、この世は人間が中心
ではないことを熟知した科学のまなざし、身体を診る医学の
まなざし、そこに俳句を愛する文学のまなざしが融合した、
独自の作家性として捉えることができる。(相子智恵)
<著者略歴>
細川洋子(ほそかわ ようこ)
昭和31(1956)年 青森市生まれ
昭和63(1988)年 「沖」入会
平成10(1998)年 「沖」同人
平成17(2005)年 第一句集『半球体』上梓
平成18(2006)年 「沖」珊瑚賞受賞
俳人協会会員/千葉県俳句作家協会会員