朔の本

黒田杏子著『一行の自己表現』

発行:2024年8月10日
編者:古川洽次
編集協力:中野利子
写真提供:黒田勝雄
装丁:奥村靫正・星野絢香/TSTJ
新書判 90頁
非売品
ISBN:978-4-911090-15-2 C0092

「俳句の出会いは一期一会ですから。」
2003年、三菱商事で行われたMC経営塾での講演を記録した一冊。「俳句の道」を貫いた稀有の俳人・黒田杏子が生きた言葉で伝える人生の豊かさとは。20年前の肉声が、活字となって蘇る。

◆主な内容

俳句と季語
俳句は挨拶――ふさわしい季語を贈る
新聞投句あれこれ
手書きのすすめ
カルラ・バジオさんと――俳句ディスカッション
俳句の豊かさ
あとがきに代えて……古川洽次


◆本文より

俳句というのは、よく写真に喩えられますが、写真を撮った場合は、前から撮れば前からしか写っていないんですよ。しかし、俳句は三百六十度、全天候型なんです。ですから、例えば今はここで作っているでしょう。だけれども、後で思い出すと、その時の空気から天気から、その時の気持ちから、みんな思い出しますよ。例えば、本日出席のお一人が作られた句に、「経営塾知命の年の飛躍かな」というのがありますが、「飛躍かな」ではなくて「秋深し」としますね。「経営塾知命の年の秋深し」。そうすると、これは今ここで皆さんと場を共有している、十月の半ばの秋深いときのこのことなんです。作った人の句だけれども、みんなの共有です。ですから、それは写真には撮れないんですよ。二度と体験できない今日のこの場所、この空気、私が今お呼びいただいているご縁……。一期一会のことが全て、この一句の中に凝縮しているわけです。(「俳句の豊かさ」より)


<著者略歴>

黒田杏子(くろだ ももこ)
1938 年 8月10 日、東京生れ。
1944 年  栃木県に疎開。宇都宮女子高校を経て、東京女子大学心理学科卒業。山口青邨に師事。卒業と同時に広告会社博報堂に入社。「広告」編集長などを務め、60 歳定年まで在職。
1982 年  第一句集『木の椅子』で第6回現代俳句女流賞・第5回俳人協会新人賞受賞。
1990 年 「藍生」創刊主宰。
1995 年 第三句集『一木一草』で第35 回俳人協会賞受賞。
2009 年 第1回桂信子賞受賞。
2011 年 第五句集『日光月光』で第45 回蛇笏賞受賞。
2020 年 第20 回現代俳句大賞受賞。
2023年 3月13日永眠。

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