朔の本

岩岡中正句集『文事』

発行:2021年10月1日
装丁:奥村靫正/TSTJ
装画:星野絢香/TSTJ
題字:「王羲之蘭亭序 張金界奴本」より 
四六判並製 216頁 
定価:2200円(税込)
ISBN:978-4-908978-70-8 C0092


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震度7の熊本地震、石牟礼道子の死、疫病との戦い。社会を揺るがす出来事をも詠み続ける著者に、家居の日々は思わぬゆとりをもたらした。そのゆとりの中で、文事(=文学に関する事柄)を通して人間の生き方を省み、考え直す。今、省察の時代へ。これからの俳句の在り方を問う一冊!

◆「あとがき」より

 好きなこと文事一切石蕗の花

この六年間、何とか時代に触れつつ、見えないものを見、内面化し、ことばにしようと努めてきたが、まだまだ心もとない。ただ、いよいよこの世がなつかしく、その思いを言葉にする、読み書きの文事一切がますます好きになったことは事実。これから自他への存問の心と澄明な詩情、それに私が生きている証しとしての個性のようなものが少しでも見えてきたら、こんなにうれしいことはない。


◆自選15句

ぱつくりと大地口開け鼓草
ででむしの角ふるはせて生きんとす
相聞のごとくに天地初茜
地震越えてこその桜と思ひけり
天上にペテロ漁る鰯雲
教会の掃除当番小鳥来る
亡き人に裏木戸開けてある野梅
このへんに教へ子がゐてあたたかし
人ごゑに山蛭降つてくるといふ
阿弥陀橋より懸りたる秋の虹
観音の臍うつくしくしぐれけり
萍の紅葉はじまるころを旅
丁寧に生きて冬帽膝の上
人間に根つこがありてはうれん草
門鎖して疫病怖るる暮春かな


<著者略歴>
岩岡中正(いわおか なかまさ) 
昭和 23年、熊本生まれ。熊本大学名誉教授。博士(法学)。九州大学在学中に俳句を始め、稲畑汀子・深見けん二等に師事。平成11年、俳誌「阿蘇」主宰を継承。
熊本県文化懇話会賞、 熊日文学賞(句集『春雪』)、山本健吉文学賞(『虚子と現代』)等受賞多数。令和3年、くまもと県民文化賞を受賞。著書に、『子規と現代』『石牟礼道子の世界』『俳句逍遥』 ほか。句集に『夏薊』『相聞』などがある。現在、日本伝統俳句協会副会長。毎日新聞に「俳句のまなざし」連載中。

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