朔の本

『芭蕉の天地』書評・記事

『芭蕉の天地』が新潟日報(2021.10.31)で紹介されました。
評者は若井新一さんです。

角川『俳句年鑑 2022年版』で、髙野公一著『芭蕉の天地 「奥の細道」のその奥』が今年の評論Best7に選ばれました。評者は西村我尼吾さんです。

 文献学的な、綿密な調査によって、おくのほそ道の完成に至る句の背景を時系列的に例証している。不朽の古典として認識する「おくのほそ道」とは何であったのかという疑問に光を当てるものである。芭蕉はおくのほそ道を披露せず、死の直前まで創造し続けた。去来が情勢を考慮して託された一冊を死後八年経って出版するに至ったが、なぜ芭蕉は公表を逡巡したのであろうか。そのことを考察するうえでの事実的根拠を与えてくれるものである。おくのほそ道に関する時系列的一次資料が示すものは、それが芭蕉の最後に到達した境地に基づいて全体が構成されているという点である。芭蕉にとって、おくのほそ道とは元禄二年三月から八月までの荒行の成果ではなく、その後幻住庵での総括や元禄七年までの出来事や旅を包摂した連続的「旅」による行が齎す境地の高まりの総体を元禄二年の三月から八月までの旅の時間に凝縮し構成しなおした文学空間であるという事実である。おくのほそ道は、冒頭の李白説への挑戦といい、自己の境地の高まりを秘かに総括した作家ノートであったのかと思った。

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